名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)3272号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕本件事故は、昭和四五年三月二九日午前一一時二〇分頃、知多郡阿久比町大字白沢字庵の下八番地の一地先、通称知多街道の道路上で発生した。当時の天候は晴であつた。
事故現場附近の状況は、右知多街道が南北に通じ、その西側は阿久比川が流れている。道路の巾員は6.4メートル、中央にセンターラインの標識が施されており、道路の西側端(川側)にはガードレールが設置されている。附近は非市街地で、路面は舗装されており、平坦で、見通しがよい。
被告玲子は、軽四輪乗用自動車(スバル三六〇、以下A車という)を運転してこの道路を南から北へ向つて進行して来た。すると、その前方を、道路左端から2.3メートルぐらい中央寄りに同方向に進行している原動機付自転車(その運転者が原告であつた、以下B車という。)があつた。B車の速度は時速約三〇キロメトール程度であつた。A車はB車よりも速度が速かつたので追越しにかかつた。その時のA車の速度は時速五〇キロメートル内外であつた。追越しのためセンターラインを越えて対向車線内へ入つたとき被告玲子は前方約一〇〇メートルの距離に対向(南進)してくる一台の貨物自動車に気が付いた。これを見て、同被告は慌ててハンドルを左に切り北向車線に戻ろうとしたが、ハンドルを左へ深く切り過ぎたため、道路左側端のガードレールにぶつかりそうになり、慌てて今度はハンドルを右に切つたところセンターライン附近へ来てしまつた。そこでさらにハンドルを左に切りB車の進路上直前に進入して急ブレーキをかけた。急ブレーキのためA車は右側車輪で6.1メートル、左側車輪で5.9メートルのスリップ痕を残して、道路左端のガードレールに車体の前部左端を僅かに衝突させて停止した。停止する直前、A車の後部左側にB車が衝突した。衝突地点は道路左側端から約1.3メートルのところであつた。A・B車のこの衝突によつて原告はその場に転倒し、前示傷害を負うに至つた。
右認定の事実によれば、本件事故は被告玲子の過失、即ち対向車線の安全を確めることなく追越しを始めて対向車線内に進入した過失とハンドル操作不適切の過失に原因するものと認めるのが相当である。
被告等は、本件事故の発生は原告の過失が原因であると主張する。よつて按ずるに、一旦B車を追越したA車が、B車の進路上で一度は左へ寄り、更に右へ寄つて蛇行運転をしていたとは言え、そのA車がB車の直前で再び急にハンドルを左へ切つてB車の進路上に進入し急ブレーキをかけるとは極めて異常な事態というべく、そのような事態まで予測して原告が減速若くは徐行すべきであつたということは無理であつて、その間に過失のかどは認められない。その他、原告に過失があつたと認めるに足る証拠はない。
(藤井俊彦)